面白半分 猫半分

人としての面白半分な日々と、猫とともに面白半分な日々。熊本在住。頭も半分、おバカさん。

タサキ理容店

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日曜の朝、隣の上天草市にあるタサキ理容店に散髪に行った。タサキとは40年前、宇土高校の同級生だった。タサキは実家の床屋のあと継ぎ、親子二代で町の人々の髪を切った。久しぶりに会うと、当時の撫でつけた長い髪は消え、産毛のような頭髪姿で、職業病か背中はこんもり丸くなっていた。いかにもひなびた田舎の床屋の親父然としている。僕もポンコツ。頭の中にはクリップが挟まれ、膝の靭帯は切れ、いつもネジが巻かれたように頭が痛い。彼の店は大きなバイパスが出来るまでの町のメインストリート上にあった。すぐ坂を下ると当時では交易の栄えた港があり、その港から僕の町の港に船が行き来し、僕の町の港からは市内までの鉄道、JR三角線が満員の乗客を乗せて走っていた。そんな賑わいも40年も経てば大きく変わる。彼の肘と背中はその40年の賑わいと引き換えに曲がってしまった。

僕は出かける前に彼の携帯に電話する。彼は驚いたように電話に出る。余りの暇さに居眠りし、僕の電話に眠りを起こされたかのように。当然客は僕一人。タサキは僕の1か月伸びた髪と髭を剃る。昔話と今の時代への皮肉な話、政治屋の無能を嗤う。まさに床屋談義。

「チョキチョキ、チキチキ…」彼のハサミが僕の耳の周り、首の後ろと、まるで時を刻む秒針のように正確に音を立てる。その秒針の音の合間に、僕と彼との記憶の時間が行き来する。帰り際にタサキは何か言いたそうだった。「ネットの広告」とかで人は来るとだろうかな。「知名度のある、安売りの床屋のチェーン店なら可能かもしれないが、普通の床屋では無理たい」…と答える。お金を払い店を出て、誰もいない真昼の港町の道路を歩く。もともと寂れた町が今度のコロナでとどめを刺されたようにも思え、テレビの中では観光地の寂れようが大げさに報道されているが、全国津々浦々「誰も知らない」こんな理容店は数えきれないくらいあるのだろう。僕がいなくなったら、店の前のあのぐるぐる回る、看板の電源は引き抜かれたかもしれない。電気代がもったいない。コロナに感染しなくても町の店の灯りは消える。次に電話する時、僕のこころは少しドキドキするだろう。日曜の真昼の昼下がり。