面白半分 猫半分

人としての面白半分な日々と、猫とともに面白半分な日々。熊本在住。頭も半分、おバカさん。

吾輩堂に行った。

僕は運がいい。現実に何度も死にかけた。僕の脳内の白いもやもやした影、血だらけのCTの画像を見た診た医者に、お礼の挨拶に行ったら、笑顔で後ずさりされた。「てっきり、死んだ・・・いやぁ、元気で何よりだったね、ははは」僕の姿を幽霊を見たように、苦笑いする先生の胸に、仕方なしに地元のケーキ屋で買ったお菓子を押し付けて帰った。

 一年ぶりに仕事の会議があり、その前日、頭の中に、ぼんやり、猫の本が浮かぶ。作者は思い出せないが、京都の三月書房で買ったタイトルは「セリーヌ、愛猫ベベールとの旅」

なんで30年も前の本を思い出すのか。セリーヌはフランスの作家で若かりし僕の脳にきわめて悪影響を与えた小説「世の果ての旅」の作者だ。生来、根性の悪い僕の性格を決定的に捻じ曲げた本で、読んだことを今でも後悔している。レコードでいえばアルバートアイラーのゴーストか。

 そのセリーヌが愛した猫の名前が「ベベール」、第二次世界大戦中に、セリーヌは亡命、愛猫ベベールと逃げ回るという大雑把なストーリーだが、ついでに浮かんだのが、この本は珍しい本だから、古書でも高く売れるかもしれない。(売る気はないが)で、いやらしいことに、いくらかしらと検索してみたのだ。値段は千円もしなかった。(まぁ高いほうか)

で、そこで寝床のスマホに出てきたのが、福岡の猫の本、専門店「吾輩堂」のサイト。

 中を覗くと、すごい。猫だらけ。(当然なのだ、猫専門店なのだから)これは本物。これは行かねば。まるで体がどんどん吸い寄せられていく。僕は運がいい。最後に猫の本の巣窟に足を踏み入れることができるとは!

 会議そっちのけで、大きなリュックサックを用意した。天神のホテルを朝出て、スマホ頼りに店を探す。田舎者には都会の人の多ささえストレスとなる。朝から頭が重い。前夜、会議後の懇親会で盛り上がり過ぎて、最後に、左の口の皮膚がピクピクしだした。発作の前兆かと、会話を止め、おとなしく部屋に戻り、横になる。吾輩堂への道はそんなに分かりにくさはないが、天性の方向音痴、まるで朝から、付近をぐるぐる回り、道に迷う。まるで「朔太郎の猫町」のように。しかし、猫の姿は神社で一匹、見ただけ。道案内の猫はおらぬか!熊本の田舎から猫族の代表がやってきたのだ!頼もう!怪しい猫男ではありませぬ!この路地か、いゃこの路地か、まったくスマホは頼りにならぬ。もう到着したことになっているではないか!再度ぐるりと町内一周。珈琲店の角、掃除機の音。ぺたペタ進むと、ここだ!吾輩堂!のれんの奥で掃除機をかけている女性声がして、開店5分前だが、店に入れてくれる。なんと優しい猫よ(人だ)

 急に僕の性格も借りて来た猫のように従順になり、喉がごろごろ(くちがピクピクではない)しだして案内されるまま、リュックを降ろし書棚を覗く。嗚呼、世界中の猫の本だらけ、しかも、ある程度、ジャンル分けされている。(どこその、大手の書店の本を知らない店員が、売れそうな本をかき集めて積んであるのとは違う)ゆっくり見ていられない。見ていたらどんどん買い始めるから、初回は、好みの本のかたまりを順番に買い始める。赤瀬川源平、猫の幻想特集…猫の絵本の棚に目がやるが、そこまでは買えぬ。2階は猫のグッズの宝庫。しかもこだわりの品ばかり。すごろく図と京都の猫娘用に、小物いろいろ。

喉のごろごろが鳴りやまぬ。迷うな、これ以上居たければ、この店の本を全部買うしかない。全然、通の買い方ではない。衝動買いで田舎猫まるだしではないか!悪運の強い僕だが、僕には時間はなさそうだ。難しい本にてこずるより、赤瀬川さんの本でいいではないか!レジでお金を払い(本物)、本性がばれないように店を出る。リュックが重い。ついでにとなりの美術館で、ダリの絵を一枚、間近に見る。ダリはいい。いつみても、初めてみてもダリはいい。ダリは猫は好きだっのだろうか。

 新幹線に飛び乗り、熊本駅熊本駅から単線の列車に乗り、自宅へ帰る。リュックを降ろすと、家のバカ猫どもが寄ってくる、きさまらに土産などあるものか!さすがに疲れがたまる。ベットに体を横たえ、親分猫の寛太がいつもように、寄ってくる。布団からはみ出た足の指を、ポンタがいつもように噛む。(土産ではない!)

セリーヌとベベールの旅、よろしく、僕と寛太の旅は続く。

吾輩堂の事を話すと、闇の中で寛太の喉がごろごろ鳴り出した。

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