面白半分 猫半分

人としての面白半分な日々と、猫とともに面白半分な日々。熊本在住。頭も半分、おバカさん。

命日

今日は京都時代、僕が働いていたの仕事先のアルバイト、K君の命日だ。こんなことまでブログに書く必要はないかもしれないが、クロちゃんもういいではないか。書かせてくれ。君の事は僕しかしらない思い出がたくさんあるから。誰が読もうか、いいから書かせてくれ。僕が死んだら君の思い出も消えるから。せめてネットの世界だけでも、記録に残させてくれ。

君は動物園の飼育係になりたくて僕の店にバイトに来た。日本では獣医はもちろん、飼育係になるのさえ難関の世界だ。ラジオである動物園の園長の話を聞いたが、その人は学生の時から動物園の飼育のアルバイトに精を出し、園内でも名前を憶えてもらい、採用時に少しでも有利に働くように努力したそうだ。その人の働きぶりは園内でもすでに有名で、もちろん採用するほうからしたら、慣れ親しんだ有能なアルバイトを採用した方が安心だものな。もしくは動物園の獣医からの推薦。数年に一度、採用枠が出た時に有利に働くようだ。

そんなコネも何もない君は、うちの店で必死に働いた。そして関西のある公立の動物園の職員になるため、夜は必至で公務員の採用試験の勉強をした。(血尿出るまで!) 面接会場でスーツ姿の受験者の中に、ぽつんと居るセーター姿の男と親しくなり「なんでそんな恰好でいるの?」と聞くとそいつは「どうせコネで採用されるから」と言ったそうだっけ。そしてクロちゃんとそいつは見事にその市の職員に採用された。残念な事に君の配属先は水道局で動物園じゃなかった。採用されて働いておれば、いつか動物園に配属が変わるかもしれないからその市の職員になれと言った僕に「もうあきらめたよ、お父さん」と答え採用を辞退した。もちろん僕は君の父ではない。いい加減な、ただのペットショップの店長なだけだ。

その後僕は店を辞め、熊本に帰り、君は店の後を継いだが、しばらくして店を辞め雑貨の貿易の仕事をはじめたことを聞いた。ちょうどバブルの時期で京都も無駄に騒しかった。金に物を言わせて、どんどん珍しい生き物が買われていった。君はそんな奴を心底軽蔑していたな。あの時、僕がいればもしかしたら、何か変わったのかもしれないが、何の話も聞いてやれなかったお詫びに今回も花を贈るよ。

君は驚くほど純粋で、わがまますぎた。周りのみんなは、君の屈託もない笑顔も忘れたかな。君の記憶はあの時のままだけど、僕と、君のお母さんは結構年をとったぜ。

 

S君。こんなブログで君の事を書くのはもちろん初めてだ。しかもクロちゃんと同じページで。たださ、君の笑顔も僕の中では、まだまだ記憶に残っていて、クロちゃんのことを考える裏側で君のこともこっそり思い出していたんだ。君の壮絶な孤独を思うと本当に何も言えない。

 あの時、ほんのちょっとだけでも、時間が巻き戻されていたらと思うと、こんなひねくれものの僕の目から涙がどんどんわいてくるんだ。

命日…クロちゃんと、S君の、いのちのひ。

 

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